あずきごはんの日記

ドラマや映画の感想、推しへの愛を叫ぶブログです。

【ハコヅメ】この世で一番面白い警察漫画の話をしよう

ドラマ版も絶賛放送中の警察漫画『ハコヅメ』がめちゃくちゃ面白い。

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1日24時間のうち20時間はハコヅメ読んでたいし、全人類にハコヅメ全巻送りつけて布教したいし、義務教育の必修科目にハコヅメを追加したい。でもただのコマ(弱小会社員)である私にはそんなことできる時間も財力も社会的地位もないので、ハコヅメの面白さについて語ることでどうにかこの欲を押さえつけようと思う。

 

※原作・ドラマ版の大筋に関わる重大なネタバレはできるだけ避けてます

 

①リアルな警察官達の姿

ハコヅメで描かれる警察官のリアルさ・親近感は他の刑事ドラマ等とは比べ物にならない。

それもそのはず、ハコヅメの作者である泰三子先生は元女性警察官であり、作品には実際に彼女が一緒に働いてきた警察官の姿や経験してきた出来事が反映されているのだ。警察官から漫画家というのはなかなか珍しい経歴だが、泰先生は漫画を描き始めた理由として「警察の広報」をあげている。

gendai.ismedia.jp

「育休から復帰したら警察官の募集の広報に力を入れて、警察官の負担を減らしたい」と思うようになったんです。高校生の社会科見学を担当したことがあったんですけど、「警察官になりたい人はいますか?」と聞いたら、誰も手を挙げなかった。

一人だけ、手を挙げかけた男の子がいたので聞いてみたら、「前は警察官になりたいと思っていたけど、親に『自分のことも一人前にできないのに、人を助ける仕事ができるはずがない』と言われてあきらめた」と言うんです。内心、「そうじゃない! そんなに立派じゃない人たちが、ただ一生懸命にやっているだけなんだよ!」と思ったんですけど、そのときはうまく返せなくて。

そこから、「あの男の子みたいな人たちに、どうすれば警察の仕事を伝えられるだろう?」と考えていたんです。文章だと、たぶん若い子は読んでくれない。じゃあマンガだと読んでくれるんじゃないか。でも私みたいな下っ端が、広報でマンガの企画を立てても、絶対に決裁はおりない。じゃあ『モーニング』みたいな有名な雑誌に載ったら、みんな読んでくれるんじゃないか? そう思って、1ページのマンガをモーニング編集部に送ったのがきっかけです。

(インタビュー記事より引用) 

 

元警察官が「警察官志望者を増やしたい」「警察のリアルを伝えたい」という思いで書いている漫画。だからこそハコヅメには「そんなに立派じゃない人達が愚痴を言いながらも一生懸命仕事をする」描写が多い。

 

例えば交通取り締まりの回では「どうせ来るならクソ野郎」「警察官だって人間なんだから!せめて気持ちよく切符切りたい!」という人間らしい台詞が飛び出している。

ちなみにこのエピソードが載っている1巻、初期の帯はこんな感じ。

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天才かな??

 

また女性警察官特有の苦労が多く描かれているのも今作の特徴の一つ。その中でも特に印象的なのが「トイレに行くタイミングが限られている」問題。

 

そもそも警察官は山奥での行方不明者捜索や夏祭り会場の警備などトイレがない場所での勤務が多い。さらに女性警察官は装備の関係上、警察署以外でトイレに行くことができない。そのため現場での仕事では常にトイレの問題が付き纏う。

 

なお泰先生は週刊漫画家に転職した感想として「好きなタイミングでトイレに行けるから天国」と答えている。

gendai.ismedia.jp

警察官のお堅いイメージを覆すような親近感爆発エピソードは他にもたくさん描かれている。

 

夜パトロールの怖さを歌で紛らわせたり

 

サイレンにあてられて署長の車でワイルドスピードしたり

 

疲れすぎてマウンテンゴリラ先輩と深津絵里を見間違えたり

 

高校生の取調べで絆されたり

 

詐欺師の頭の良さに週8でビビったり

 

「教官のヘルメットの下は小栗旬」と思い込むことで地獄の教場をやりすごしたり

 

大事な場面で盛大に噛んだり

 

踊る大捜査線のテーマを着メロにしたり

 

ニュースの「警察は何もできなかったでしょうか」にムカついたり

 

(当たり前だけど)警察官も私達と同じ人間なんだなぁと気付かされる。

 

でも彼らは愚痴や泣き言を言うだけではなく、然るべきタイミングではかっこよくて頼りになる姿も見せてくれる。

 

この"親近感"と"かっこよさ"のバランスが絶妙でクセになる。

 

②魅力的なキャラが多い

 ハコヅメは親近感とかっこよさと個性とやばさを全取りした魅力的なキャラクターで溢れている。

 

"警察感"の無さと大胆な言動が魅力の大型ルーキー川合麻依(演:永野芽郁

 

美女2割ゴリラ4割おじさん4割ミスパーフェクト巡査部長・藤聖子(演:戸田恵梨香

 

愛すべき"良い奴止まり"捜査一係のわんこ山田武志(演:山田裕貴

 

どんな奴でも手玉に取るヤベェ毛玉・捜査一係巡査部長の源誠二(演:三浦翔平)

 

推し(新撰組司馬遼太郎)の力で自分を騙す・捜査一係の牧高美和(演:西野七瀬

 

愉快な部下達に振り回される熊・副署長(演:千原せいじ

 

真っ直ぐな目をしたクズ伊賀崎交番所長(演:ムロツヨシ

 

そして(現時点では)ドラマ版に出演していないキャラクターの中にも”おもしれー奴”がたくさんいる。

 

クセが無さすぎてドラマ化を逃した捜査一係巡査部長・那須(牧高のペア長)

 

発言の6割がR15、生活安全課のクノイチ捜査官・黒田カナ

 

「趣味は交通取り締まり」交通課の白バイ巡査部長・宮原三郎

 

弱小戦国大名系エリート交通課長・秀山

 

何かがぶっ壊れている爆イケ捜査二係巡査部長・如月昌也

 

24歳3児の父、生活安全課の子育てアドバイザー益田

 

ネチネチ職質で市民をイラつかせる天才・敷根

 

手錠の練習台になりがちな留置係・上杉

 

公安の人

 

物語が進むにつれてキャラクター達の勤務態度・人間性・所属・人間関係などが変化していくのだが、予想外な奴が予想外な方向にぶっ飛んだり、予想外な奴が予想外の奴と予想外なことになったり、予想外の因縁や過去が発覚したりするので、色んな意味で安心できなくて楽しい。

 

③多種多様な仕事の描写

多くの刑事ドラマでは特定の部署(主に刑事課)の重大現場しか描写されないことが多い。

 

しかしハコヅメでは地域課(交番)・刑事課・生活安全課・交通課など様々な部署の多様な仕事が描かれている。

 

防犯カメラ精査、夏祭りの警備、職務質問、鑑識、万引き、裏物DVDの精査、野生動物との戦い、逮捕術訓練、JAPPAT(警察官の体力テスト)、学生への講話、振り込め詐欺対策の広報、不適切事案の防止対策、ワールドカップのたびにスクランブル交差点の警備をするやつ、落書き事件…

 

このような「身近にあるけど現場で警察が何をやるのかは意外と知らない」「一般人は存在自体を知らない」仕事や訓練を分かりやすく面白く描いてくれているため、身近にいるお巡りさんや何気ない(ように見える)事件のニュースにも興味を持てるようになる。

 

また仕事描写は作者の実体験に基づいたものも多く、6巻収録の「ガサ現場で性具を発見してしまった話」もその一例である。

 

ガサ現場や職質現場に「子どものエロ本見つけちゃった…」系の気まずさが漂うことがあるなんて想像すらしたことなかった。全国約30万人の警察官の皆様、毎日お疲れ様です。ありがとうございます。

 

④シリアスとコメディのバランスがすごい

ハコヅメにはコメディ描写が多い。 

張り込み捜査が「デート中に同僚達が張り込んでる飲食店に乗り込んでしまう」コントになったり

 

通常点検が笑ってはいけないやつになったり

 

ピストルを撃つかどうかの瀬戸際で間抜けな姿になってしまったりする。

 

一方でシリアスパートのクオリティも高く、つらい事件や事故に打ちひしがれることもある。Twitterで広く拡散された「チャイルドシートの漫画」はその代表例だ。

 ハコヅメの中では珍しくシリアスに全振りしたエピソードで、交通事故の危険やチャイルドシート使用の重要性が伝わってくる。

 

また性犯罪も題材として頻繁に扱われている。デリケートな性犯罪事件をエンタメ媒体で扱うのは難しく、「性的加害を軽く見ている」「性犯罪をエロとして消費している」という評価を受けている作品も存在する。その中でハコヅメは性犯罪と被害者とそれに対応する警察官を真摯に描きながらも、エンタメとして成立させている。

 

作中では「供述をしっかり理解するためにエロ用語をマスターしろ!」というコメディ系の描写から、「性犯罪立証の難しさ」「聴取によって被害者を更に傷つける恐れ」「被害を隠したり小さく話したり聴取を拒んだりする被害者の感情」「幼少期の性犯罪で受けた傷を引きずる大人」などのリアルな苦しみの描写まで幅広く描かれている。

 

また、「被害者に原因を求める人が多い」「被害者への誹謗中傷が起こりやすい」という性犯罪の傾向にも向き合い、「犯罪は加害者が悪い」「被害者を更に傷つけるようなことはしないでほしい」という主張を提示している。

 

このように温度差のある詳細な描写と事件・事故に対する真っ当な主張を積み重ねることで「事件や事故を真摯に描いているのに重くなりすぎない」という絶妙なバランスを保っている。すごい。

 

一方で最近のエピソードは「コメディパートかと思いきや超シリアス展開への伏線だった」パターンも多く、読者の情緒を不意打ちで狂わせてくる。この「(倫理的には)安心できるけど(展開としては)安心できない」構造により、「軽い気持ちで読み始めたのにいつの間にか沼にいた」ファンを量産しているのがハコヅメの恐ろしいところである。

 

⑤伏線がやばい

これまでも少し話したように、ハコヅメは予想外の展開が予想外のタイミングで起こることが多い。

 

所謂「初読時はもちろん面白いけれど、真のすごさが伝わってくるのは2回目以降」タイプの漫画で、何回読んでも新しい発見がある。

 

初見では気づけないような伏線仕込み、伏線回収のタイミングと手法の気持ちよさ、すぐに読み返したくなる感じ…などは『進撃の巨人』を彷彿とさせられる。

 

一方でドラマ版は(現時点では)原作よりも、伏線が見えやすくなっている。ドラマ版は原作よりも多くの人の目に触れるため、ある程度の大衆性が必要となる。より多くの人に「続きが気になる!」と思ってもらうために伏線の分かりやすさは必要だ。

ドラマ版での変更点は妥当だが、原作の一つの魅力である「伏線のやばさ」は弱くなっているので、ぜひ原作の方で体感してもらいたい。

 

⑥ペアが尊い

今作の主人公である川合と藤はそれぞれに恋愛フラグもあるものの、それ以上に2人の関係性が尊いことに定評がある。

 

パーフェクトゴリラ系巡査部長と鬼のメンタルを持つ大型ルーキーの女性ペア。最初は「掛け合いが面白い自然体コンビ」くらいの印象だった。

 

しかし物語が進むにつれ、「川合は藤の姿を見ながら警察官として成長し、藤は川合の成長を見守ることに喜びを感じる」そんな良きペアになっていく2人。

 

そして「彼氏ができないように張り付く」「特別扱いを喜ぶ」「相手の好みに合わせて髪型を決める」「相手の喜ぶ姿が仕事のモチベーションになる」など、互いに対するクソでか感情描写が増えていく。

 

そして中盤からは少女漫画のような胸ギュンコマもどんどん増えてきている。一生一緒にいてくれや。

ドラマ版でも藤・川合ペアの尊さは健在。「川合の服を一緒に選ぶ藤」という原作未収録のイチャイチャまで飛び出している。戸田恵梨香永野芽郁が原作のあれやこれやをやってくれる可能性があると思うと、身体中の血液が沸騰しそうになる。ありがとう世界。

 

ちなみにもう1つのメインペアである源・山田ペア(通称モジャツン)は「クソ毛玉呼ばわりしつつも、本当は誰よりも源を信頼・尊敬している山田」と「そんな山田を"絶対に裏切らない存在"と認識し、めちゃくちゃ執着している源」という関係性。

 

相互激重感情っぷりがエグい。しかもこの2人は同室で暮らしてる。やばい。

 

 

…とこのように魅力たっぷりの警察漫画『ハコヅメ』はモーニングで絶賛連載中。「コミックDAYS」からも読むことができる。コミックスは既刊17巻。最新18巻は8/23に発売される。 

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また生活安全課の女性警察官・黒田カナを主役に据えた別章『アンボックス』もシリアスの傑作なので、ぜひ本編17巻の後に読んでもらいたい。

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ちなみに私はアンボックス読後2時間ほど涙がとまらず、泣き止んだ後も3日くらいがっつり引きずった。心して読んでくれ。

 

そしてドラマ版は永野芽郁さんのコロナ発症の影響で撮影が中断。特別編が放送される。

原作が大切にしていることをしっかりと理解した上でドラマ媒体に合うように再構築しているめちゃくちゃ良い作品なので、原作既読者も未読者もぜひ観てほしい。そしてドラマきっかけで興味が湧いた人は是非原作も読んでもらいたい。